海までの距離
ハーメルンのスケジュールは、ホームページを見て、常に頭の中にインプットしてある。


「新潟行き高速バス、到着致しまーす」


抑揚のない男性のアナウンスが、低く響く。


「元気でな」


海影さんが右手を差し出した。
サングラスの奥の表情が読み取れない。


「今生の別れみたいに言わないで下さい」

「…そうだな。また、東京来るもんな」

「書類審査突破して、11月にはまた来ますから」


差し出されたその手を、ぎゅっと握り返す。
骨張った細い手。だけど、とても大きい手。
力強く握られた手は、海影さんが手放すとふわりと軽くなる。


「…ちょっと、手ぇ貸しな」


私は言われるがまま、両手をパーにして海影さんの前に出した。
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