たぶんきっとおそらくだけど彼は来ない
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たとえば私が高熱で倒れそうだとしても、彼は来ないのだろう。昔は「プリンが食べたいな」というわがままひとつにも駆けつけ、コンビニで拵えてきたぷっちんプリンと少し得意気な笑顔をくれたものだけど、今やありえない話だ。きっと私がどんなに下手に出ても彼は生返事すら返してくれないに違いない。

なぜ彼とそんなにも疎遠になってしまったのか振り返ると、原因は両手の指の数を越えてしまいそうなので列挙は難しい。というよりも、めんどくさかった。

私が面倒くさがりやだからこそ、彼は持ち前の優しさや機転を利かせて、とても巧く私の世話を焼いてくれた。

プリンではなくてババロアが食べたいなと思った時にはエクレアを買ってきてくれた。たまにはアップルパイが食べたいなと思った時にはモンブランを買ってきてくれた。CMを見てソフトクリームを食べたいなと思った時にはガリガリくんを買ってきてくれた。彼はいつも、気は利いたけれど「正解」はしなかった。だけど、私の気まぐれを察知するのだけは、心でも受信しているようにお見事だった。

そんな彼も、もう、私に構ってくれはしない。わがまま過ぎただろうか。私から彼に返す何かがあるべきだったろうか。気分は少し、クイズ番組の出題者だった。チャレンジャーがいかに私の心情を汲み取れるか、私の欲するものはなにか当ててみせよ! 

……彼が番組で初めてのチャレンジャーであり、限りなく優勝者に近い優秀者だった。

なにがいけなかったのだろう。自分を見つめ返す。わがままで気まぐれでいい加減だった自分が、人から特別に愛される要因などさして思い浮かぶわけもなく、ただ空ろに働かせる脳ミソから、単純な、「プリン食べたい」という欲求が滲み出てくる。

そういえば、彼が作りおきしてくれていたプリンが冷蔵庫に残っていたはずだ。

しかし、薄いオレンジが優しく照らす冷蔵庫の中に、目当てのものはなかった。だれか勝手に食べたんだろうか。

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