飛べない黒猫
シルバーのひょうたんのような物がキーボードの横に置かれてある。

不思議そうに眺めていると「マウスだよ」と蓮が言った。


「コードレスのマウスだよ。
コレがなかなか使い良い。」


蓮がマウスに触れると、パソコンが起動し画面がパッと明るくなった。
大型デスクトップに映し出されたのは、画面の中を優雅に泳ぐ七色のクラゲ。


「かわいいでしょ。
俺の恋人、ぴーちゃん。」


自在の色を変えて発色しながら、ゆらゆらと泳いでいる。
ちょっとグロい。


「待ち受け画面で飼ってるの。
俺が作ったんだぜ、オリジナル。
ちゃんと餌やって遊んでやらないと、スネて発色しなくなるの。」


アイコンで餌を選択する。


「こうやって…餌にカーソルを合わせて、ドラックして口まで運ぶんだよ。
やってみる?」


真央はミミズを選んで食べさせた。
…よろこんでるみたい。


「おもしろい?」


真央は首を横に振り、蓮の顔を見た。


「あはは、駄目だったか。
よし、じゃあ次までに、何か面白いの仕掛けておくよ。」


蓮はおかしそうに笑った。



パタパタと響くスリッパの音が、廊下の階段下で止まった。


「真央ちゃーん、お茶が入ったよーっ。
ケーキもあるの、降りてらっしゃーい。」


大声で洋子が叫んでいる。


「ちょっと、今の、あれ…大声出しちゃって。
上品な社長夫人ってガラじゃないねぇ。
自覚持って頂きたいよ、まったく。」


蓮が顔をしかめる。
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