I LOVE YOUが聴きたくて
「さっきも言ったとおり、あの人は有名な画家。私とは、住む世界の違う人。あの人には、これからも画家として輝いてほしい。そして、偉大になってほしい」
そう言って、魅麗は、篭れ日を見上げた。
「だから、ひとりで育てるんだ」
「うん。…怜(ユウ)が私のお腹に宿った事を知った時、私、凄く驚いたの。たった一度だけだったのに、あの人の子どもを私は身籠った。凄く驚いたし、それと同時に、凄く感激して、泣いたわ。たくさんたくさん…。そして、産みたいと思った。でも、世界の違う、あの人と私。私達は結婚をしてるわけでもなかったし、私はあの人から結婚の約束の言葉をもらったわけでもなくて…。私は、あの人の未来の邪魔はしたくないって、悩んだわ。そして、私、決めたの。ひとりで産んで育てるって」
魅麗は、静かに言った。声は静かだったけれども、眼差しは凄く落ち着いていて、綾は、魅麗の力強さを感じた。
「違う世界の人か…。私は、そうは思わないけどなぁ…。恋愛は、自由だし、誰と誰が出会うかなんてわからないし…。それに、たった一度の愛で授かったなんて、素敵だわ。二人は、出会うべきして出会ったのよ」
綾は、感動せずにはいられなかった。
「聞いてもいい?」
「ん?」
「魅麗さんと画家さん、どこで出会ったのかなぁと思って。もし良かったら、聞きたいなぁ」
「そう?なんだか、恥ずかしいなぁ…」
魅麗さんは、とても照れながらも、嬉しそうに話し始めてくれた。
二人が出会ったのは、今から五年前の、それはそれはとても暑い、夏だった。場所は、フランス。
魅麗は、OLの仕事を辞め、もらった退職金と貯めていた貯金を持って、大好きな雑貨に囲まれた自分の店を出したいという夢を胸いっぱいに抱き、夢を現実にしようと、フランスへ留学した。エッフェル塔の見える憧れのパリで、アパートを借りた。窓から見える、パリの街並み。魅麗は、街を知りたくなって散歩に出た。天気の良い昼下がり。街並みは、とても素敵だった。お店の連なるアーケード。煉瓦造りの左右対称な建物。古風な街並み。有名な凱旋門も見つけた。ふと見ると脇道があり、それは路地裏へと続く道らしく、何処に繋がるのか、向こうには何があるのかと、魅麗は胸が高鳴り、行ってみた。煉瓦造りの壁の続く細い道を進むと、広いスペースが現れピエロが玉乗りをしていた。
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