I LOVE YOUが聴きたくて
どれくらいの時間が流れたのだろう。

怜樹は、絵を描き始めて、非常に集中していて、ずっと絵を描いていた。
久しぶりだった。

怜樹は、脚立から降りた。そして、少し、絵から離れてみる。そこから、絵の全体を見た。
完成間近な壁面の絵を見ながら、ひとり呟いた。

「初心忘れるべからず、だな」

その絵は、怜樹が昔、パリのアトリエで描いた絵だった。

大空に、まっすぐにそびえ立つ一本の大木。それに実、可愛らしい木の実。
冴えずる鳥たちと色とりどりの花ばな。
今にも、本当に動きだしそうな、川のせせらぎの、絵。
特殊な夜光絵の具で描いた、壁いっぱいを使って描いた壁画だ。


怜樹は、壁画を見ながら、パリの思い出を思い出す。

「久しぶりに、こんなに思い出したなぁ…」
移り行く忙しい毎日の中での、ふっと差し込んだ久々の日本で、ゆっくりと流れるように、思い出していた。


「あ、そうだ」

怜樹は、ふと思いつく。
「魅麗、お店出したかなぁ~。あの人のことだから、出してるはず。今度、探してみよう!」

怜樹は、ひとり頷いた。

そんな怜樹の様子を見て、声をかける人がいた。

「何をひとりで頷いておる、絵描きさん」

怜樹は、驚いて振り返ると、ひとりの老人が、徐に立っていた。
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