私たちの愛のカタチ
先輩の虜
その日は朝からしとしとと雨が続いていて、湿気がまとわりつくようだった。
桃子は先生の話をぼんやりと聞き流しながら窓の外を見た。
ぐったりとした灰色の雲に桃子も嫌な気持ちになってしまう。
つまらない数式の説明はだんだんと遠退き、桃子は伸びた前髪の隙間から見えるはずのない風景を見た。
揺れる髪、柔らかな笑顔、明るい声、そしてあの名前を呼ぶ・・・

「平良ぁっ!」

しかしその声が聞こえる前に数学教師の怒号に心を戻される。

「聞いてるのか!」

慌てて視線を戻し、小さく謝ると形だけ問題を解きだす。
先ほど目の前に浮かんだ温かな日だまりはもうどこにもなかった。

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