私たちの愛のカタチ
―もこ。

確かに、声が聞こえた気がした。
その声も呼び方もあの人特有のものだが、桃子はそれがただの空耳であることを知っている。
何度となく頭を流れる、いや、意図的に何度も思い返しているからなのだ。
いろいろな表情も、ひとつひとつの仕草も、幾度となく繰り返して思い出している。
ガタガタとバスに揺られながら、桃子はようやく手元に本があることを思い出した。
もちろん内容なんてこれっぽっちも頭に入っていない。
そっと窓へ視線を流すと重かった雲はだいぶ薄れ、雨はもうやんでいた。
町の風景はただ通りすぎていく。
まるで桃子のことなど全く知らないのだと言うように。

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