頭痛
 事件は、過去から存在している。二十四才になった秋史の、ひと夏の出来事から、全てが明らかになってゆくのだ。

 大学の卒業に取り組む中、秋史は、以前から軽い頭痛に悩まされていた。

 既に一年留年をしている秋史は、実家から今期で生活費を止めると宣告されており、もしそうなれば、今いる下宿を引き払い、実家のある田舎で暮らすことになっていた。

 卒業する単位が足りない訳ではない。しかし、どうにもこうにも、卒業論文を提出する教授と、反りが合わないのだ。

 秋史の研究室の教授は老齢で、しかも腎臓が悪く、透析をしなければならない体であった。その透析を受けた日には、必ず、秋史は教授から何かしら注意を受けた。反論しない秋史に畳み掛けるように言葉を投げ掛け、秋史が首を縦に振ると、教授は横に振る。

 媚びる事も無く従順であっても、単位をチラつかせながら、それを許さないのだ。そんな大学生活が秋文を圧迫する。


 単位が足りなければ、実家に戻らなければならない。
 
 しかし、それこそ受け入れ難いことで、実家の反対を押し切って大学に出てきた秋史にとって、卒業も出来ずに実家で散漫に暮らすなど、身の毛もよだつ思いだったのだ。

 特に大いに反対した叔父と暮らすのが嫌だった。父が死んだ折、我がもの顔で実家に上がり込み、それ以来居座っている男だ。秋史には、逃げるように家を出ていった経緯がある。

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