頭痛
「ホット珈琲を二つ下さい」

 凪子は秋史に聞きもせずに注文した。秋史は窓から濡れた道路を走る車のヘッドライトを、目で追っていた。

「ねぇ、大丈夫」
 凪子が秋史の顔を、下から覗き込んだ。

「心配いらないよ。少し疲れただけだから」
 温かい珈琲が、二人のテーブルに運ばれてきた。
 秋史は無言で口を付けた。

「主人公の名前は、貴方と同じなのね」

「ああ、感情移入しやすいから」

「話の中で出てきた妹の名前が私と同じなのは、思い付きなの?」

「あれは、偶然、君の名と同じだっただけだよ」

「そうなの」

「この話は、君と出会う前の話だから」
 そういうと、秋史は珈琲を一口分だけ、流し込んだ。

「凪子って名前、珍しい方だと思うよ。今まで出会ったことはなかったよ」

「あら、そうかしら」
 指先を暖めていた凪子も、ようやく珈琲を口にした。

「僕は君のことを良く知らないんだ」

 秋史は言いたかったことを切り出した。

「君が凪子という名前ではないことは、もう僕には分かっているんだ」

 珈琲の湯気が、二人の間に漂っている。

「君は何者なんだい?」
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