頭痛
 外はまた、雨が降り出していた。秋史と香澄は車に乗った。

「車を出して」
 香澄は横顔で言った。

 秋史はエンジンを掛けると、車を出した。
 雨と夜の暗闇のため、視界が悪かったが、構わずアクセルを踏み込んだ。

「そろそろ話してくれないか」
 秋史は香澄の方を向いた。

「まだよ。もう少し、走らせて」
 香澄は雨粒を眺めながら、バッグからお酒のボトルを取り出した。

「飲ませてよね」
 香澄は瓶に口を付け、ゴクゴクと飲み出した。

「見覚えあるでしょう、このお酒の色。貴方のお父さんも造っていたお酒よ。このお酒はね、人を狂わすのよ」

 長い直線の道路になったのを見計らい、香澄は煙草に再び火を着けた。
 糸のような煙を作り、からだの中から、汚れた空気を吐き出す。

「いいわ。話してあげる。今、この話をする為に、私はここにいるのよ」
 香澄の目は、真っ赤に充血していた。さながら、血を吸った植物の根のようだった。

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