頭痛
「秋史。母ちゃんな。叔父さんと一緒になろうと思っとる」

 始めは、母が何を言っているのか、分からなかった。

「えっ、嘘やろ」

 流石に秋史は飛び起きて振り返る。母に向けた自分の顔の筋肉が、なぜだか笑顔を作る。

「ホンマや。嘘やあらへん」

 無理矢理、押し沈められたような心境だった。嘘ではないという言葉が、秋史の理性を奪って行く。

「何でや。まさか好きなんか」

 母からの返事はなかった。目を反らし、そのままおし黙ってしまった。

 何か言って欲しかった。黙っていては、肯定したことに等しい。

 ありえない。あってはならないことが、秋史の目の前で起きようとしている。

「なぁ、俺は反対や。どんなことしてでも、許さへんで」

 秋史は頭痛を抱えながらも、静かに服を着て、何も言わずに家を出た。余りの出来事に悔しくて涙が止まらなかった。

 その日は路上で日本酒をあおり、意味も分からずに、一晩中、何かを叫んで街をさまよい歩いていた。その夜、秋史の記憶は全くなかったと言っても、過言ではなかった。

 次の日、秋史は見覚えのある路上で目醒めた。まだ、頭がガンガンする。下宿からほんの数十メートルの所まで、辿り着いていたのだ。
< 4 / 34 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop