頭痛
 下宿に戻ってみると、既に母の姿はなかった。
 しかし、玄関を開けてすぐのところに、母からの置き手紙があった。

 母からの置き手紙には、泊まらずに帰ること、御飯のおかずを作って冷蔵庫に入れてあること、そして体を治して勉強を頑張るように、と書いてあった。

 秋史は置き手紙を握り締め、再び、深い眠りに堕ちた。


 完全に意識を失っていた秋史の下宿を、警察が訪ねてきた。任意同行を求められ、扉を叩く音で起こされた秋史は、朦朧としている中で警察の取り調べ室までやってきた。

「まだ事故だと断定した訳ではないのですが、貴方の実家で爆発がありましてね」

「爆発、ですか」

 秋史は段々と意識がはっきりしてきた。

「ガスですよ。充満していたガスが爆発したんです」

「えっ、うちですか」

 任意同行を求められた時にも、別の警官と同じやりとりをしている。しかし、今回は意識がはっきりしていた。

「貴方の実家です」

「中の人はどうなったんですか」

「大人二人、子供一人の遺体を発見しております」

 秋史は言葉を失い、呆然とした。

「御足労願ったのは、貴方のお母さん、妹さん、叔父さんであるか、遺体の確認をして貰いたいのですよ」

 そこで、取り調べ官は一旦言葉を区切って言った。

「その前に、貴方の昨晩の行動を、お聞かせ願えませんか」


 翌日、実家の所轄警察の遺体安置室で、秋史は三人の遺体を確認した。間違いなく三人の遺体であった。

 秋史は昨晩、街で酒に酔って、叔父を家ごと吹き飛ばしてやる、とわめいていたそうだ。何人もの通行人の目撃証言があった。
 今思えば、心底、そう思っていたことは事実だった。
 秋史が疑われるのも無理もなかった。
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