SSS
SSSの掟

その1、自分を愛すること

──とあるライブスタジオ。
深夜2時を回ろうとするころで
あるが、中にいる人たちはひど
い興奮状態にあった。
左手首に黄色のミサンガ。濃く
塗りたくられはメイクに振り乱
れた髪の毛。
喉が潰れるのではないかという
くらいに叫んでいる人たちの視
線の先には、男性が4人と女性
が1人いる。
キラキラと輝く汗に、ファンに
向ける最高の笑顔。
彼、彼女らは、今裏世間を賑わ
している“SSS”というバン
ドグループだ。
派手な髪色をしているが、歌っ
ているのはゆったりとした優し
いバラード。
女性から男性に向けての愛の気
持ちや言葉を音に乗せて歌う。
ふわり、ファンに向けられる笑
みは美しくもどこか儚い。

「ありがとうございました」

ライブスタジオの玄関前に並ぶ
のはSSSのメンバーたち。
今だ止まらぬ汗をそのままに、
見に来てくれたファンたちに1
人ずつお礼を言っていく。
ファンたちはみな、恥ずかしい
のか俯いてメンバーを見ている
様子はない。

「ありがとうございました」

最後のファンにお礼を言い終え
て、控え室らしき所に戻る。
道中、短髪な金髪がチラリと腕
にはめていた腕時計を見る。

「もう3時になるぜ」

「あーあ、てことは、睡眠時間
は2時間もとれないな」

不満を漏らしたのは唯一の女性
メンバーだと思われる、オレン
ジの髪をもつ人。

「2人とも、文句言うなよ」

冷静に、だがどこか疲れている
様子のサングラスをかけている
人が2人をこずく。
控え室につくと、黒髪がドサリ
とソファーに倒れこんだ。

「おい、ボーカル。さっさとマ
ンション帰って寝るんだぞ」

ボーカル、と呼ばれて黒髪はむ
くりと無表情に起き上がり携帯
を開く。
かちかちと弄り出したかと思う
と信じられない速さで自らのブ
ログへの更新を始めた。
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