薄桃の景色に、シルエット。
 彼女はすぐに帰省して、地元で静養したら元気になったと連絡をもらった。

 そんな言葉をもらった時、私もふと思い出したように地元の事が頭に浮かんだ。


 懐かしい風景。

 懐かしい空気の味。

 懐かしい声。


 全てが色鮮やかに私の頭をいっぱいにした。


 ―――帰らなきゃ。


 そう思った。帰って、自分の身体と疲れ切った心を癒そうと。

 思い立ってからは早かった。すぐにチケットを押さえて、荷造りして、今朝出発した。

 最初はやっと楽になれると思ったのに……故郷が近づくにつれて、だんだんと悲しさが込み上げた。

 そして慣れ親しんだ場所を目の当たりにすれば、もう涙は止まらなかった。

 私は何をしてるんだろう。一体、何をして来たんだろう。

 乗客が他に居ないからか、私は堪える事なく涙を流し続けた。

 ごめん、ごめん…。

 こんな私でも、みんなはきっと抱きしめてくれる。

 もっと早く帰って来れば良かったのに、って怒ってくれる。

 だから、涙が止まらない。


「次は終点××、××です」


 幼い頃から知ってる車掌さんの穏やかな声が、私を我に帰した。

 涙で濡れた手を伸ばして、ブザーを押す。

 茶色いボストンバッグに指を絡めて、停車と同時に立ち上がる。

 じゃらじゃらっと小銭を投入して「ありがとうございました」と呟き降り立つ。

 すると背中に声が掛かった。優しい、温かな声。


「お帰り、お嬢ちゃん」


 皺くちゃなその顔が昔より少し歳を感じさせて、心に染み渡った。


「ただいま」


 その言葉をずっと複雑に思っていたはずなのに、自然と零れた。

 彼は一層、皺を深くしてドアを閉めた。私もバスに背を向ける。
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