H・U・R 519
鉄とパパ
ある夏の日の日曜日、「お父さん、新車が欲しい」と父・高良ロンメルが朝食の食パンを齧りながら唐突に言った。
「あら、ダメですよ。まだうちの車、乗れるじゃないですか」
「新車が欲しいんだよ。今の車じゃ俺の思うアレじゃないんだ」
「アレって何ですか?」
娘・エレナは(また始まった)と、父のたわいない与太話に真剣に付き合っている母・ミユキの図、としか受け止めなかったので、自分は話に加わらずにテレビを見ていた。
「いいじゃんか。なあ、エレナ。エレナはどんな車に乗りたい?」
父が自分に話を振ってきたので「うーん・・・戦車」とエレナは適当に応えた。
「よっしゃ!パパ、今からダイハツに行って戦車買ってくる!」
ロンメルは意気揚々と家を飛び出していった。
「なにを言っているんですか!ダイハツが戦車売ってるわけないです!戦車売ってるのはニッサンです!・・・もう、本当に人の話聞かないんだから」
ミユキの愚痴に、(パパンもママンも残念。戦車作ってるのは三菱です)とエレナは心の中でつぶやいた。
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