片思いの続きは甘いささやき

喬が指定した部屋は、セミスイート。
高級ホテルとして知られているアマザンホテルの中でも、もちろん料金は安くない。
喬のようなサラリーマンが宿泊するにはかなりの出費になるのに、どうしてこの部屋に喬がいるのか疑問で。

普段と違ういくつかの事に不安は隠すことができない。
もしかしたら、透子さんの結婚を機にさよならを言われるのかもしれないな。
最後の最後にこの部屋で、喬に抱かれるのか・・・。
それとも、それすらもなくて。
単純に縁が切れてしまう時間を過ごすつもりなのか・・・。

部屋の扉の前にしばらく立ったまま、雪美は心を落ち着かせて、小さく息を吐いた。

震える手で、えいや、と心でつぶやきながら、扉をノックすると。

扉の向こうに人の気配を感じた。

とくとく・・・と弾む鼓動の音に吐き気を感じながら。

息を殺して扉が開くのを瞬きもせずに見ていた。

そんな雪美の緊張感が体中を包んで立つ事もままならないと感じながら待っていると、
目の前に現れたのは。


「遅い。みんな待ってるし・・・でも・・・嘘じゃないんだな。
雪美が喬くんとつきあってるって・・・なんか不思議だな」

「え・・・?真田くん?・・・なんで・・・?」

扉の向こうから現れたのは、ほんの数時間前に披露宴を終えたはずの濠。
雪美は、既に着替えを終えた見慣れた濠の顔を前にして茫然と立ち尽くすしかなかった。



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