100回ありがとう



「春なのに日が暮れんのは
早えーな」



先生は自分の頭部を
ポリポリとかきながら
空を見上げる。



「一人で帰れるか?」



先生は少し眉を下げて
わたしの方を見る。



「全然、大丈夫です。」



大丈夫じゃない、と言ったら
どうなるんだろう、と
一瞬考えたけど、
大丈夫じゃない、なんて
言えないわたしには
そんなこと考えても
無意味だった。



「そっか。これからは
補習で遅くなるかもだし、
親御さんに伝えとけよ」


「分かりました!」



じゃあ気をつけて、と先生は言うと
職員室へと歩いていく。




スラッとした長身で
顔もなかなかイケメン。
そんな素敵な外見を壊すような
だらけた表情。


…全部大好き。



高3になった、わたし
野瀬胡桃の担任の先生


星野章吾先生。



大好き。



「先生、大好き」



わたしは先生に
聞こえない声の大きさで
告白する。



わたしの先生は
ただの先生と生徒だった。

わたしもそれを望んでた。


あのときまでは。



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