喧嘩屋土門
通りを一本も出れば、既に往来は賑わっている。

大荷物を風呂敷に包んで背負う商人、艶やかな着物を纏った若い娘、道端には風鈴売りが店を出している。

「おぉ…風情だねぇ…風鈴か」

涼しげな音色に耳を傾けつつ、男は紺の甚平姿で歩く。

江渡(えど)の町は今日も活気に満ちている。

幕府がこの町に開かれて百年余り。

この国では大戦(おおいくさ)も久しく、小競り合いさえお目にかかっていない。

この往来の喧騒が何よりの証拠。

庶民が平穏に暮らせている事が、国が安定している証である。

天下太平、世は事も無し。

尤も、男は政になど興味もなく、その日オマンマが食えればそれでよいのだが。

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