白い翼と…甘い香り

「ごめんね」

「気にすんな」

そんな会話を、今までに
何度、交わしただろう。

「今日は逢えない
ごめんね」

「今夜は泊まれない
ごめんね」

私は
謝ってばかり…




和也は「気にすんな」と
いつも笑っている。

その笑顔を
いつか私が

壊して、しまうんだろう…



荷物を2つ持って
廊下を1人で歩いてる

少しうつむいた
和也の姿が目に浮かぶ。

私の乗った
エレベータが空になり

もう一度上がってくるのを
1人で、待ってる。



それでも浮かぶのは

笑顔だけだった。





止まることなく下降する
小さな箱の中で

その狭さに感じるのではない
息苦しさで、泣けてくる。


今はまだ、やっぱり
その笑顔を、壊したくない…


何より大事だと思える物を
今は、壊さないでいたい。


残りの時間を
後悔しないで過ごしたい。



何か1つでもいい…

「ごめんね」と
言わないで居られる

自分でいたい。



だから、少しだけ

勇気を、出す。




地下に着いたエレベータから
降りるのをやめ

私はすぐに
「閉」のボタンを押した。

和也が待ってる階まで
勝手に上昇し始める。



ドキドキするね。

笑って、くれる?


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