LITTLE
捨てたもんでもないみたいだね」
 皓は丁寧に頭を下げる。
「すいませんでした。……いきなり暴言吐いて、飛び掛かったりして……。でも、どうして、あんな格好を?」
「その事に関しては、まず以前この街で起こった事件を話しておくべきかな」
「事件?」
「かなり前の事だから、君達は知らないだろうけどね」



 今から三十数年前の事。
 この街で一つの事件が起きた。
 とても残酷で、聞いただけで吐き気がする程に気分の悪くなる様な事件。
 被害者の女の子の名前は美弥。
 事件当日の夕方の事、美弥はいつも通り小学校から自宅までの帰路を、友人達と共に歩いていた。
 友人達と別れてすぐ、美弥は異質な男性に出くわした。
 男の容姿は、一言で言えば汚らしかった。
中年の小太りした体、無造作に剥げ散らかした頭。
 みてすぐに、汗や臭い等の言葉を連想してしまう程に、汚らしい容姿をしていたのだ。
 初め、美弥はその男を横目に通り過ぎたのだが、咄嗟に腕を掴まれ、近くに駐車してあったバンに連れ込まれてしまった。
 僅か小学生女子の力では、中年の腕力に勝る事が出来なかったのだろう。
 口や手足をガムテープで巻かれ、おまけに目隠しまでされた。
 そこからの記憶は殆どが曖昧で、なんとなく感じていたのは、嫌らしい声と異臭、男が肌に触れた感覚だけ。
 手足が動かない。
 声も上げる事が出来ない。
 狭い空間でジッとしている時が、時間を想定する事さえも諦めてしまう程に長く続いた。
 その後、暫くして美弥は、ようやく手足を自由にされ光を見た。
 しかし、そこに広がっていた光景は、決して彼女にとって幸福なものではなかったのだ。
 見た事もない倉庫だった。
 後ろには、自分をバンに連れ込んだ男の姿がある。
 男の息が荒くなると共に、美弥にとって本当に長くて辛い日々が始まった。
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