LITTLE
 服を千切られ、臭くて気持ちの悪い男の慰み者にされる。
 こんな事が何日も続いた。

 美弥の精神が完全に壊れ掛けた頃、男は彼女を川沿いの橋の下に捨て、去って行った。
 それから数時間後、近隣の通報により美弥は警察に引き取られ、現在捜索中の少女である事が判明した。



「美弥は、僕の娘だったんだ」
 悲しげな顔をして、オジサンは私を見る。
「美弥も生きていれば、君の様に制服を着られたんだろうね」
「じゃあ、その美弥って子は……」
「自殺したんだ。美弥は精神が回復しきって、警察に自分が受けた男からの虐待を告白した後、手首を切ってね」
 あまりにも衝撃的な事件の全貌を前に、私は彼に対して何も言う事が出来なかった。
 きっと、皓も同じだ。
「こんな事を二度と繰り返してはいけないんだ。だから僕は、かつて流行った口裂け女の噂を利用した。子供達に恐怖感を与え、夕方には口裂け女が出没するから、なるべく早く家に帰らなければならない、という決まり付けを狙ってね」
 この人は自分が悪を演じる事で、子供達に迫る本当の悪を、今まで退けてきたんだ。
「アンチヒーローってやつか」
 皓は唐突に言った。
「アンチヒーロー?」
「そう。香奈は分かるだろ? 仮面ライダーブラックでいうところのシャドウムーンみたいなものだよ。あとは……ブラックジャックでいうところのドクター・キリコとか。大切なものを守る為、自分の信念の為、どんな悪行でもする。まあ、別の角度から捉えた正義の味方ってとこかな」
 皓は本当にそういう話が好きだ。
 正義の味方やヒーローの話になると、いつも目の色を変える。
 ちょくちょく皓のヒーロー談義を聞いているからだろうか。
 なんとなく分かってしまう自分が悔しい。
「アンチヒーローか。でも、それも今日で終わりだ」
「どうして? 今日までここら一帯を守って来たんじゃないですか?」
 オジサンは腕を組み、溜め息交じりに言う。
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