聖戦物語 奇跡が紡ぐ序曲~overture~

第二楽章

 ヴェーネ王国の庇護下に置かれる、公国エスカリオーネ。―――そこの森深くには、ひとつの学院があった。


 その学院―――ゼヘレム学院は、貴族から庶民までだれもが入ることの出来る魔法学院である。


 暗黒時代―――つまりゾフィア帝国に国が支配された頃、当時の王であるヴェーネ王ラグラスの密命により、帝国を一瞬で滅ぼせる兵器を開発する研究所を帝国に悟られぬよう森の中に設け、人々に奴隷のような圧政を強いるゾフィア帝国の滅亡を望む多くの科学者たちがそこに在留して開発に明け暮れた。


 しかし、それらが完成する前に、セオドラによって集結した戦争とともに、その施設も廃棄され、それから千年余り後、忘れ去られたその施設を見つけた現校長、ティリー・ルフィスが、多くの魔法使いを育てるための施設を作るために施設の周りの土地を買った。過去の遺物を大切にすることを美徳だと考え、彼女はその施設の原形が崩れないよう、剥がれ落ちた壁の張り紙や、罅割れた壁の修復だけを試み、今の学院は外装こそ古風なものの、どこか趣があると生徒たちには人気を博していた。


 改装された施設に伴い、入学する生徒に家と学院の行き来という苦労をなくすため、男女別個の寮も増築され、今では全寮制の学院として名声を誇っている。




< 15 / 132 >

この作品をシェア

pagetop