傍においで
「本当に…よく覚えてらっしゃる。」

そう呟いて、俺は自分の中に何やらくすぐったい様な思いがある事を、何となく感じた。
恥ずかしさと嬉しさが五分五分。
『幽霊』という存在に対して、このような感情を抱くのも奇妙な感じがしたが、俺は何だか幸福だった。

「ねぇ…私、幽霊なんだけど…こんなに普通に話したりして大丈夫?」

突然、今度は彼女が気まずそうに言ったものだから、俺は何だか可笑しくなって笑った。

「お姉さんは、俺に何か悪さがしたいの?」

俺がおどけた調子で聞くと、彼女は首を横にぶんぶんと振って否定した。

「違うの…ねぇ、君ったら本当に可笑しな子ね…私が怖くないの?」

そう尋ねられて、ふと思う。
ー嗚呼、彼女はきっと、その問いの応えが返ってくるのを恐れている。
彼女の潤んだ、とても不安げに揺れる瞳が、俺に彼女の感情を伝えてくるように感じた。
けれど、だからこそ、此処は素直に自らの応えを示すべきだろう。

「怖くないよ。」

俺の応えに、彼女は当然驚いて固まった。

「俺はずっとお姉さんと話してみたかったし…お姉さんはとても泣き虫だから。」

だから、怖くない。
重要な事だから、最後にもう一度付け足せば、彼女はまた静かに泣いた。
やっぱり彼女は、泣き虫だ。
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