黒い羽根


 ため息と同時に。

『残念……かすりもしなかった』

 確かに、そう思った。だけど……

 

 その台詞は僕ではない声によって語られた。

 僕より少し高い、けれどハスキーな……女の人の声で。

「え……?」

 思わず声が降ってきた方を振り返る。

 黒いパンプス。
 細身の黒いジーンズ。
 黒いレザーのロングコート。
 肩にかかる長いゆるやかなウェーブの艶やかな黒髪。

 全身黒尽くめの中、やたらけばけばしい唇の赤が鮮烈な……。

「いや~……惜しかったねえ」

 派手な顔した女の人は、それはもう残念そうに。目の上に手をかざし、トラックが去った方角を見ながらそう言うと、僕を見おろし笑いかけた。

 ――え?

「どうしてわかるんだ?」

 口にしようとした言葉をまたもや奪われ、茫然とその人の顔を見上げる。


< 3 / 114 >

この作品をシェア

pagetop