『若恋』榊の恋【完】




毅が出ていって一時間もしないうちに携帯に連絡が入った。

「引っ越し準備らしいです。業者のトラックが入りました」

「金を掴ませてどこへ行くのか聞き出せ」

向かいに座っていた若が毅からの電話が聞こえているかのように命令を下す。


しばらくして毅から再度電話があった。


「若佐の実家、長野の片田舎だそうです」

「わかった。それだけわかれば後はいい。面倒かけたな、毅」

「いえ。若と榊さんの頼みですから。あ、あと、業者から聞いた話ですが仕事を辞めると話していたようです」

「………そうか」


それだけ聞けば十分だった。
こっちが断罪しなくても、仕事を辞めて実家に戻ればそれだけで針の蓆だろう。


「人生おしまいだな」

「そうですね」


窓の外を見る。

これからの彼の歩む道を象徴してるかのような暗い空が広がっていた。






―――嵐が来る








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