『若恋』榊の恋【完】


この空間からひかるの姿が消えた。

二度と離さないと誓い常に傍にいたのに。



「恋人?恋人がいなくなったの?」

「……それは、まだわかりません」



ひかるが自分からいなくなったとは思えない。

なのに、拐われた痕跡もない。



「あ、この車、あなたの?」

彼女は後ろにある車を指差した。


「違います。その車はお借りしてきたものです」

「もしかしてあなたの名前は榊原さん?」


彼女は困惑気味に小声で問うた。



「榊原ではありませんが、似た名前です」



彼女が動揺して目を泳がせた。



「彼女、もしかして」

「もしかして?」

「まさか、間違えられて」

「?」

「わたしと間違えられて」

「?」



風に靡く髪を耳に掛けながら、むうっと唸り黙り込んだ。




< 352 / 440 >

この作品をシェア

pagetop