吸血鬼は淫らな舞台を見る episode ι (エピソード・イオタ)
広範囲に配された塀というより三次元の地図上の境界線を思わせる。
ベルリンの壁という醜くて淫らな過去を人間は経験しているはずなのに似たようなものを造って歴史を繰り返したいらしい。
「人間ってなんでも区別したがる生き物なのかな」
柔らかく人間を軽蔑すると、脳内の黒い化け物は赤い本を捲り【血液】について書いてあるページをまた見せた。
「生きるには血液が必要だって言いたいんでしょ……そんな心配は無用だよ」
イオタが視線を下ろす。
薄闇の中、黒い集団が失神している若者を取り囲む。
アサルトスーツで身を固めているお馴染みの連中。