吸血鬼は淫らな舞台を見る   episode ι (エピソード・イオタ)


傍にいる白衣を着た若い男が「臨床実験ナンバー03、被験対象アカウント名ガンマの観察は現時点で七十四日と十一時間六分二十一秒経過しましたが、血圧、脈拍、心拍数の数値に問題ありません。危惧されていた白血球も正常値まで減少。死刑囚F3258の遺伝子レベルを確保しています」と板チョコサイズの端末に向かって喋っている。レザージャケットの若者が持っていたやつに比べると大きくて若干古いタイプを使っている。


以前ガンマ少佐が「手を組んでるんじゃない。人間をこき使ってるんだよ」と言ったことを思い出し、腹の底で笑ってやればいいのか、鼻で笑ってやればいいのか、客席から罵声を浴びせればいいのか、馬鹿にする方法を思い浮かべたが、死刑囚F3258の遺伝子ということはタブロイド紙の記事は的を射ていたことになり、自分も同じように人間に創られたと思うと行動には移れなかった。

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