月下の踊り子



両手で髪をゆっくりとかき上げながら深く息を吐いて感情を落ち着かせる。


来週、舞歌の刑の執行日。


そう、それは同時に舞歌の夢が潰える日。



―――ふざけるな!



憤りを隠さず、バンッと机を叩いて立ち上がる。


今、自分がどれだけ愚かな行動に出ようとしているか百も承知。


しかし私にはそれしか舞歌の為にしてやれることは思い付かなかった。


今から上の方に直々に香川舞歌死刑執行に関して反対の意を述べる。


それでは駄目だ。


看守風情の戯言にしか受け取られない。


そうなれば残る手段は舞歌をこの監獄から脱走させるしか他にない。


見つかれば当然、クビが飛ぶ。


例え巧く見つからなかったとしても責任問題が降り掛かってくるのは当然。


だがそんなものは考えたって仕方がない。


都合良く今日も夜勤だ。


今は何も準備をしていないので今日はその意を伝えるだけ。


脱走の決行は明後日になる。




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