放課後は、秘密の時間…
視線も合わせずに気のない返事をした市川君に、あたしの胸はちくりと痛んだ。


――バカみたい……


自分からひどいことを言って、市川君から離れたクセに。

あたしは、何を期待してたんだろう。


「淋しい」なんて、市川君が言うわけないよ。

その逆は、あったとしても……


土曜日だって、大也にされたキスを市川君はきっと見てたはずだ。

あんな瞬間を見て、それでも好きでいてくれるはずない。


あたしのこと、もう完全に嫌いだよね……


そう思うだけで、同じ教室にいるのが耐えられないほど辛い。

この授業が早く終わらないかと、さっきからそればかり願ってる。


「なんだよ、拓真ぁ。そっけねぇなぁ」


ちぇっと軽く舌打ちをした斉藤君に、あたしは笑顔を作った。


「いいから。ほら、ちゃんと自分の絵、描いて」

「はいはい」


パレットと筆を持って画用紙に斉藤君が向き直った瞬間――


ガタンッ……


何かが倒れた音と生徒達の驚いた声が、大きく室内に響いた。


振り返ってその光景を目にした瞬間、あたしは彼の元へ走り寄っていた。


「――市川君っ!!」

< 166 / 344 >

この作品をシェア

pagetop