放課後は、秘密の時間…
倒れたイスと、床に散らばった絵の具や筆。

その中心に、市川君は片膝をついて苦しそうに息をしていた。


「市川君、どうしたのっ?」

「センセ……俺……」


かすれた声は、まるで吐息のように弱々しい。

市川君の顔は、少しだけ赤い。


その頬に触れて、あたしはあまりの熱さに言葉を失った。


――すごい熱だ。


「どうして、こんな熱で……」


ううん、今はそれよりも。


「市川君、歩ける?保健室に行くよ」


意識ははっきりしてるのか、市川君は言葉なく頷いた。


「斉藤君、市川君を保健室に連れてってくれる?」

「わかった。ほら、拓真……」


ふらふらした足取りの彼を斉藤君が支えながら、教室を出ていく。


「――静かに。みんなは、いつも通り絵を描いてて」


ざわつき始めた教室中に声をかけて、あたしは職員室に走った。

実習生のあたしは、高田先生に現状を報告して指示を待たなきゃいけない。


事情を聞いた高田先生が、あたしに出した指示は――……

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