放課後は、秘密の時間…
声の方をパッと振り返ると、前の扉のところに男子生徒が一人立っていた。


確か、あの子は……

そうだ、市川拓真君。


実習に来る前に渡されていた生徒名簿で、必死に名前と顔を覚えたんだよね。

そのおかげで、担当を任せてもらった2年C組の生徒の名前は、男子も女子も、ちゃんと全員分把握してる。


市川君とは、まだ挨拶程度にしか話せてないけど。

何か用かな……?


戸口のところに立ったままの市川君は、あたしを手招きしながら言った。


「谷村先生が呼んでますよ。美術室に来て下さいって」

「えっ?」

「俺、先生のこと呼んで来いって頼まれたんですよ」


そういえば、市川君はC組の美術係だったっけ……?

って、先生に呼ばれてるんなら早く行かなきゃ。


「ごめんね、みんな。そういうことだから、また明日ね」


相変わらず、楽しそうに話してる生徒達に手を振ると、


「先生バイバーイ!」

「明日、続き話そうね~」

「彼氏によろしくー」


なんて、ちらほら返ってきた。


先生と生徒っていうよりも、なんか友達って感じかな?

歳も近いから、自然とそうなっちゃうのかも。


でも、こういうのって、生徒との距離が縮まったみたいで嬉しい。

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