《短編》想い人〜叶わぬ想い〜
あたしの涙が止まるまで祐介さんはギュッと抱きしめてくれていた。


暖かくて、このまま時が止まってしまえばいいのに、そう思うくらい幸せだった。


でもこの幸せは望んではいけないもの。

手を離さなきゃ…


「ごめんなさい…、あたしのせいで哲哉さんを怒らせてしまって…、喧嘩まで。本当にごめんなさい。」


「奈々ちゃんのせいじゃないよ。これは俺と哲哉の問題だから…、奈々ちゃんを巻き込んじゃって、ごめん。」

そんな顔しないで…

そんな辛そうな顔をされちゃうと…


抑えられないよ………



祐介さんを見つめていた瞳にそっと指が近づいて、涙の後を消してくれた。

そのまま頬に手が置かれた。


「痛っ!!」

触れられただけなのに激痛が走る。


「ゴッ、ゴメン。痛いよね?早く冷やさないと。店の中行こうか?」


自分でもわかるくらい腫れてる。
こんな顔でみんなの前に行ったら心配されちゃう。


「大丈夫です。あたし今日はこのまま帰ります。」


「すぐ冷やさないと駄目だよ。」


「でもこのまま戻ったら心配されて、場の雰囲気壊しちゃうから帰りますよ。で、一つだけお願いがあるんですけど…、

あたしのバッグ持ってきてもらえませんか?」


笑顔で言ったあたしに、わかったと言って中に戻る祐介さんの背中を見つめた。

きっともう見る事は無い彼の背中を目に焼き付けた。
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