ガラスのタンポポ#虹
「では、次の検査は、また1ヶ月後に予約を入れておきますね」


「ありがとうございました」


診察室を出て会計を済ませると、奏来がオレの腕を軽く引き、メモに走り書きした。


“隣のリハビリセンター寄って行っても、いい?”


「何か用事あんのか?」


“うんっ。お友達!”


友達…?


奏来にエリ以外の友達なんて、聞いた事がない。


そのエリも、奏来が卒業を間近に退学してから、つき合いなんてないはずだった。


それでも少し楽しげに歩く奏来と、病院に併設されたリハビリセンターへ向かうと、病院とセンターをつなぐ渡り廊下から見えた窓の外には。


細い霧のような雨が降る中、車椅子に乗った少女が傘もささず濡れたままでいた。


青く茂った木々の若葉が濡れ、同じように少女も濡れている。


淡いピンクのコーディネイトワンピは雨粒で濡れると赤い模様を作り、長くウェーブがかった髪に雫がわずかに光る。


憂いのある瞳は、雨粒の1つ1つを追っていた。


まるで雨の妖精のように、上空から降る雫に歓迎されているかのような少女。


目を離すのが惜しい、そんな思いを抱かせたが、奏来は渡り廊下のリハビリセンター側の入り口から真っ直ぐその子に向かって走った。
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