《短編》切り取った世界
それを合図にしたように、明日香をベッドに押し倒す。



「…そろそろ、世間話にも飽きたんじゃない?」


『―――ッ!』


馬乗りになり、キャミソールからチラッと見える柔肌に手を忍ばせた。


奪うように唇を合わせ、少し開いた隙間から舌を捩じ込んで。



二年前までは、嫌と言う程こんな行為を繰り返してきた。


美緒に対して抱いていた“初恋”と言う名の醜いものを掻き消したくて。


誰かに求められたかった。


ただ、必要として欲しかったんだ。


兄貴じゃない、俺自身を見て欲しかった。


何度その度に、現実を思い知らされただろう。


俺がどんなに足掻いたって、結局何も変わらなかった。



“やっぱ数学わかんないよ。
もぉ、弘樹だけが頼りなの!!”


違う高校だった美緒が、俺と同じ大学を志望していると知ったとき、

一筋の希望の光を見い出した。


一緒に受験勉強して、そして二人で合格して。


ガキの頃に芽生えた淡い気持ちを、確信へと変えた瞬間。


お互いの両親からの頼みも手伝って、手に入れたのは美緒の隣の部屋。


大学に入ってからは、遊びの一切を辞めた。


このまま、少しずつ俺たちの距離は近づくんだと思ってた。


そう、兄貴が転がり込んで来るまでは。


この二年、どれほど美緒を見つめてきただろう。


どれほど兄貴の姿ばかり目で追う美緒を、見つめてきただろう。


美緒が求めていたのは、良い大学に入ることと、手っ取り早い勉強の先生。


そこに居たのが俺だった、ってだけだ。


他の人間が言うように俺は、何不自由ない生活を送っているはずなのに。


なのに何一つ、手には入らないんだから。


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