裂果
男子に名前を呼ばれた。

そう認識した天音は、慌てて表情を元に戻して、目を開けた。



「……新川くん!」



目の前に、心なしか気遣わしげな顔をした新川がいた。

飛び起きようとすると、手の動きでそれを制される。



「頭打ったか」

「……うん」

「なら無茶するな、様子を見ろ」

「うん。でも大丈夫だよめっちゃめちゃ」



今度はゆっくり上体を起こす。新川は何も言わずに、ただそれを見ていた。

片手を腹部に添えたままで。

そこが痛むのか、どことなく辛そうに眉をひそめている。



「そっちこそ大丈夫なの? 私の心配する前に保健室行きなよ、痛いんでしょ?」

「いや、だって」
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