宵の花-宗久シリーズ小咄-
声の主は、玄関先から庭を覗いている女性からであった。






その姿に、思わず僕は瞬きをする。









夕焼けの色をそのまま吸い取った様な、朱い着物を着た女性であった。





黒く、艶のある髪が、静かに風を含んでなびいている。





はっきりとした凛々しい顔立ちは、少し幼さが残ってはいるが、その佇む姿は蜃気楼の様で、どことなく高貴さが漂い、香り立っていた。







日本人形の面影を持つ女性。








「何でしょうか?」







立ち上がる僕に、不安げな視線を送っている。




着物と同じ色をした、鬼灯の様な唇が言葉を織る。






「あの……お水を頂けますか?」







水?








「わたくし、昼間からずっと外に居たもので…お水を頂けませんと……苦しくて息ができません」

「外?どこにいらしたのですか?」

「お宅様の玄関前に」

「玄関?」

「はい……」





彼女は、申し訳なさそうにうつむく。












ああ……この人は、母が連れて来たのだな。








僕は悟った。




今まで、全く気付かなかったが。
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