扉を開けて
城の住人

夏休みが近い、と関係もないことを考えながら僕は机に向かっていた
教科書を見ては、家政婦に買ってきてもらった問題集を埋めていた

涼しい造りになっている家は風をよく通し、広い庭に広がっている木々は影を作り出している
運動でもしない限り、暑いと思うことはない
心地いい家だと常々思う

問題集を何ページか進めた頃、足音が部屋に近づいてきた

「坊っちゃん、奥様からお電話です。」

キヨの何の抑揚もない声が部屋の外から聞こえた
僕は母からの電話なんて珍しいと思いつつ、部屋を出た

僕は携帯を持っていないため、電話は家にある一つだけ
それを手に持ち、耳に当ててもしもしと言うとすぐさま低めの声が聞こえた

「もしもし、誉? 夏休みからそこに貴方の従兄弟も住むからよろしく。」

用件のみを伝える言葉の羅列に一瞬理解が遅れる
その言葉をなんとか咀嚼するが、意味までは頭に伝わらない

「学校には行ってない子だし、世話の方はキヨに言ってあるから貴方が特にすることはないわ。ただいるだけだからいいでしょう?それじゃあね。」

「あ、ちょ、ちょっと待ってください。」
早々に電話を切ろうとする母親に制止をする
海外で仕事をする、所謂“出来る女”である母を誇りには思うが、どうにもせっかちで困る



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