好きな人は、







「……昨日終わったよ、俺ら。」



その言葉に胸がズキンと痛む。



あたしが言って、終わらせた。



でも。


終わらせたくない。

思い出になんてしたくない。




あたしは俯いたまま、トレンチコートのポケットから指輪を出した。




ちらりと奏の方を見ると、彼はぎょっとして。

でもすぐに、あたしの行動を汲み取ったのか表情を戻して近寄ってきた。






「ゴミ箱に捨てたはずだけど。」

「……………奏……ごめ……」


「は?」


「ごめ……ごめん………ごめん………」




呆れたことに、口から出てきた言葉は一つだけ。


それでも、あたしは必死だった。


昨日は偉そうに別れようなんて言っちゃったけど。





本当は、君を突き放す自信私にはないよ。






「…私、奏しか居なっ‥」



目も見れず、下を向いたままが精一杯で。


言葉が涙のせいで途切れ途切れになってた途中。




ふいに手を引かれてバランスを崩したと思ったら





満月だけが見ている中




彼の胸の中で強く強く抱きしめられた。







「……………帰れよ……」







髪にかかる息が、距離の近さを物語る。




冷えた体に奏の体温が伝わって、思わず彼の背中に腕を回した。

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