好きな人は、


「居るのわかってんだよ。」


ドアノブの鍵に手を伸ばすと、ドアの向こうから久しぶりに聞くあの声。


ふぅ、と深呼吸して2つの鍵をガチャガチャと開けてやると、物凄い勢いでドアが開いた。




立っていたのは、グレーのスーツに身を包んだ、不機嫌そうなあたしの恋人。

そしてあたしも、負けじと不機嫌そうな表情を彼に向ける。



「ドンドンドンドン叩かないでよ。近所に迷惑でしょ。」

「居留守なんて使うからだろ。」



久しぶりに言葉を交わした彼は、まるで色々考え込んでいたあたしが馬鹿だったかのように、当たり前のような顔をして部屋に入ってきた。


どさっとソファに腰を下ろしてネクタイを緩める仕草にドキッとしたことは内緒だ。


…って、そんなこと思ってる場合じゃない。あたしは怒ってるんだから。




とある株式会社に勤める、あたしの2歳上の彼氏の名前は、徳井 奏。

あるときは残業、またあるときは会社の付き合いの飲み会、他にも会議の延長やら、翌日の御前会議の準備やらで……考えてみると一ヶ月くらいろくな連絡をとっていなかった。


恋人のはずなのに、これっておかしいんじゃないのかな奏くん。



え?あたし達とっくに自然消滅してたんじゃないの?ちょっとぉー新しい彼氏できちゃったよアハハ☆

…とか笑いながら言ってる展開になってても文句は言えない立場だと思うんですけど、アナタ。




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