桜色
プロロ-グ
桜……
桜……
桜……
見渡す限り広がる桜並木に、
私はいた。
『これは……夢…』
何故だかは分からないけれど、時々自分で夢だと分かる夢を見る。自分で夢だと分かるのはいつもとても不思議だし、何とも奇妙な感じだと思う。
…それにしても、なんて綺麗な桜なのだろうか。
私はきっと今までにこんな沢山の美しい桜は見たことがない。
感動のあまり、思わず目の前の桜の幹に触れようとしたその瞬間、突然その木が変化をはじめた。
『…えっ……?』
呆気に取られている私の目の前で、それはみるみる姿を変えていき……一人の男の人らしき陰となった。
“らしき陰”と曖昧なのは、何故かそこで桜の変化が止まってしまったからだ。
―『…~………~……』
『…え??』
……一瞬…ほんの一瞬…私は声を聴いた気がした。気のせいかとも思ったが、その時ふと目の前の陰に視線が向いた。
…もしかしてと思い、私は目の前の陰に出来る限り意識を集中させた。
―『…伝……ェ…タ……ぃ―』
微かにだが、今度はちゃんと言葉と分かるものを聴くことができた。男の人の声らしく、低くて所々聴き取りづらい。
『…伝え…たい?…何をですか?……えっ…あっ…まさか……ちょ…ちょっと待って!!今は…どうか今は醒めないで………!!』