毎日がカレー曜日
金持ちは壺がお好き

前略~インドの国から

 朝、事務所のドアを開けると。

「おはようございます」

 そこは── インド料理店だった。
 立ちのぼる香辛料の匂いと、こんがりよく焼けた肌を持つ女は、ズルズルした見慣れない衣装を着ている。

 孝輔は、とんでもないその光景に、呆然と口を四角におっぴろげていた。

 ここは、兄の経営する事務所のはずだ。
 従業員は、自分ひとり。
 昨日までは確かにそうだった。

「焼きたてのナンです」

 いかがですか?

 バスケットから飛び出すほど大きなパンを差し出される。
 にっこり微笑む唇からこぼれる歯の、白いこと白いこと。肌の色の対比もあいまって、眩しいほどだ。

「あ、いや、あの、あんた……」

 まだ、完全に魂を取り戻せないまま、孝輔は何とかそこまで言葉を紡ぐ。

「お、孝輔、きたか~」

 奥のデスクを隠すパーテーションの向こうから、見知った顔が出てくる。
 にこやかな茶髪メガネ。

「アニキ!」

 バスケットを横に押しやるようにして、孝輔は一気に男までの距離を詰めた。
 少なくとも、そこのインド娘よりは、得体が知れている相手だ。
 そして、この現状の理由を、一番よく知っている相手でもあるだろう。

「何やらかした! これはなんだ!? あの女は一体誰だ!?」

 兄を見てほっとするどころか、逆に一気に頭に血が上ってしまった。そのせいで、いかに自分が失礼な表現を使っているかにも気づないまま、インド娘に指をつきつけた。

 ゲインッ!

「サヤちゃんに失礼だろうが! このボケ弟がぁ!」

 おかげで、兄の熱い鉄拳制裁が下されることになったが。
< 1 / 53 >

この作品をシェア

pagetop