毎日がカレー曜日

無様な結末

 知らなかったのだ。

 サヤは、何も知らなかった。

 彼らの言う『削除』というものが、こんなものなんて。

 S値とは、霊の思念の力のことをいう。

 短い仕事時間の間でも、それは何となく理解できた。

 サヤが『感じる』ことを、数値として測っているのだ、と。

 削除とは、そのS値を消してしまうのだ。

 何ともいいがたい、冷たい気を手袋は吹き出している。

 死の手袋。

 それで、九十九神を存在の根元から消そうとしていた。

 やめて。

 S値は、サヤに感じ取ることが出来るものだった。

 たとえそれが、マイナスであれ。

 彼女にとって、あの手袋は恐怖そのものだ。

 自然では、ありえない気配を振りまいている。

 消される──ただ、それが分かった。

「ま、待ってください!」

 違う。

 この削除に、彼女は同意できなかった。

「やめて…お願いです。そんな消し方をしないで」

 あの壷にいるのは、悪霊でも何でもないのだ。

 ただ、主人に愛されたがった九十九神。

 突然のサヤの声に、塚原兄弟は驚いたのか動きを止めてしまった。

「どういうことかね」

 不審に思った依頼人が、口を挟んでくる。

「あ、いや…なんでも」

 直樹がこの場を取り繕おうとしていたが、サヤの目にはしっかりと依頼人が焼きついた。

 そうだ。

 あなたが。

 そう。

 あなたが。

 噛み締める。

 もっと、簡単な方法があるではないか。

 削除なんかしなくても、あの九十九神が穏やかでいられる方法が。
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