花霞む姫君
「その宝がなんなのか、俺は知らない。ただ、堀内家の姫から姫へ受け継がれ、その宝がこの地域の平和に繋がるということだけは固くオヤジから言われてきた。」


と、叔父さんは私の前に古びた鍵わ差し出した。


「これが、蔵の鍵だ。」


茶色く錆び付いた、古ぼけた鍵。


「これは…もう30年くらい前になるか。伊世子が東京に行く前に俺に託していったんだ。次の姫に渡してくれと。」

「次の…姫。」

「自分自身はもう戻ってくるつもりはなかったんだろうな。事実、二度と戻ってこなかった。」

叔父さんは小さくため息をつく。

「こんな家に生まれてさえこなければ、伊世子は東京に行かなかったかもしれないな。そして俺たち兄弟が離れ離れになることもなかった。」
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