ONLOOKER Ⅲ

似た者同士、回り道


***


「……どうしてあなたがここへ呼ばれたか、わかりますか?」
「そんなの……わかるわけ、ないじゃないですか」
「本当に?」


いつものことながら、夏生の表の顔の影響力には、呆れすら感じるほどに圧倒される。

この生徒会室へ招かれた人間はまず、扉が閉じられた瞬間に、一気に温度が下がったような錯覚に陥るだろう。
そして、自分の目の前に横柄な態度で座る人物が、本当に“あの”生徒会長で間違いないのだろうかと、目を疑う。

もしかして、このギャップを演出するために、普段は猫を被っているのではないだろうか。
真琴はそんなことを考えながら、ソファに座った夏生と、テーブルを挟んだ向かいに座る人物を見た。

なにかしらの反応を待って、夏生は口を開く。
人を見下したような無表情で、試すような視線で、淡々とした低い声で。
そんな彼と対峙した人は、驚き、不信感を抱き、恐怖してから、その後に怯えた表情を浮かべるか、反撃に出るかに分かれてくるのだ。


「彼……西林寺の怪我のことは、知ってますか?」
「あ、はい……植木鉢の破片で、大きく切ってしまったんでしょう?」
「えぇ。そうらしいです」
「大丈夫なんですか?」
「平気です」


夏生の後ろに立った直姫は、するりと包帯を撫でて、目を伏せた。
口ではそう言いながらも、まったく平気ではないというような表情を浮かべている。
できうる限りで最高に健気に振る舞っているのだ。

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