ボーカロイドお雪
 ただし、誰かに話しかけられた時のために、もう一つ細工がしてある。ヘッドホンからはもう一本細いコードが伸びていて、先っぽには小さなマイクロチップが付いていて、それがあたしのスカーフの下、喉のあたりにサージカルテープで張り付けてある。
 もちろん、これも見せかけだけ。チップは不燃物ゴミ置き場に捨ててあったラジカセの内部にあった物を失敬してきた。何の部品だか分からないけど、それっぽく見えればいい。
 ま、これってペテンじゃないかと言われたら返す言葉ないけどね。でも都会によくいるストリートライブの人たちみたいに歌聞いた人からお金をもらうわけじゃないから、神様仏様も大目に見てくれるんじゃないかな?
 日が傾いて涼しくなり始めた公園には、少しずつ夕涼みに人が集まって来た。カップルもいれば親子連れもいる。そしてついにあたしはあの人の姿を公園の入り口に見つけた。いつものようにジーンズにTシャツ、スニーカーというラフな格好。耳が隠れる程度に伸ばした髪が夕暮れの風に揺れていた。
 あたしはパソコン画面の中のお雪に片手で合図を送る。すると、画面からボーカロイドのコマンドが全て消えて暗い画面になり、お雪だけの姿だけが残った。誰かにパソコンの画面を見られたら、スクリーンセイバーだと言えばごまかせる。
 あたしは右手を伸ばして、ジャンとギターをかき鳴らした。さあ、お雪、あんたの出番だよ!
 すると二頭身のCGキャラのお雪の姿が変化し始めた。縦にすらりとした七頭身ぐらいの少女の姿に変化する。
 初めてこれを見たときはあたしも驚いた。お雪が本気モードで歌う時にはこの姿になる。
 服も変わる。足首近くぐらいまでのスカート部分がふわっと広がった白いワンピースドレス。肩ひもで吊って着るタイプで本来は肩や腕の肌を露わにするのだろうが、肩から二の腕にかけてやはり白いレースで覆われている。
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