私立聖ブルージョークス女学院
単元4 文月
 七月になり梅雨も明け、夏のギラギラした日差しが照りつける季節になった。この月の僕は、将棋部の顧問補佐になった。
 山口千夏という部長の三年生が部室へ案内してくれた。そこは板張りの壁に畳が30枚は敷いてある、武家屋敷みたいなすごい部屋だった。ちょうど部員同士が二人一組になって対局中だった。
 とりあえず見ていてくれと山口千夏が言うので、僕は対局の邪魔をしないようにずらりと並んだ部員たちのペアの後ろから、盤面をのぞいて回った。小声で山口千夏が僕にささやく。
「先生は将棋をなさるのですか?」
 僕も小声でそっと答える。
「いや、子供のころ、父親の将棋に付き合わされた事があった程度なんだ。それ以来だから、正直よくは分からないな」
 だが、部員たちの盤面を見て回っているうちに僕はある事に気づいた。それぞれのペアのうち、一人が使っているのは「王将」と書かれた駒だが、もう一人が使っている方には「玉将」と書いてある。
 僕が質問すると山口千夏はこう答えた。
「ああ、上段者や目上が『玉将』、目下の者が『王将』を使うという決まりなんです。天童の職人さんが盤と駒を運んで下さった時にそう聞きました。今日はそれぞれ上級生と下級生の対戦ですから、玉将を使っている方が上級生なんです」
「え!天童って、山形県天童市の事か?将棋盤や駒の日本でも一番の名産地じゃないか」
「あら、さすがは社会科系の先生。よくご存じですね。この学校の将棋部で使っている道具は、全て天童市の一流の職人さんの手作りだと顧問の先生から聞いてます」
 な!さ、さすがは名門お嬢様私立。学生の将棋部の道具が全部そんな超高級品だとは。
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