インサイド
「では、姫君に捧げる音楽を。私めの拙い演奏でございますが」
と、おどけて一礼を。
「あ、ありがとうございます」
姫の方が深いおじぎを返し、ピアノの横に移動した。
こっちの方が指の動きが良く見える。
それに顔も、……覗けるし。
「もう少したったらこれも教えてあげるから、しばらくはさっきのファイル、がんばってね」
「はいっ」
楽譜はなくても構わないらしく、裕明はそのまま弾き始めた。
始める前の緊張なんてない。
少しも空気は変わらない。けれど最初の一音が弾かれた途端に、千帆は軽く、さらわれた。
なんて指、なんて手だろう。それよりも、なんて音楽。
――夢に見るなら、こんな音。
この時が、いつまでも終わらなければいいのに、なんてそんなことを、生まれて初めて考えた。
と、おどけて一礼を。
「あ、ありがとうございます」
姫の方が深いおじぎを返し、ピアノの横に移動した。
こっちの方が指の動きが良く見える。
それに顔も、……覗けるし。
「もう少したったらこれも教えてあげるから、しばらくはさっきのファイル、がんばってね」
「はいっ」
楽譜はなくても構わないらしく、裕明はそのまま弾き始めた。
始める前の緊張なんてない。
少しも空気は変わらない。けれど最初の一音が弾かれた途端に、千帆は軽く、さらわれた。
なんて指、なんて手だろう。それよりも、なんて音楽。
――夢に見るなら、こんな音。
この時が、いつまでも終わらなければいいのに、なんてそんなことを、生まれて初めて考えた。