インサイド
 華さんの問いかけに、千帆はただレッスンが長引いたのだと答え、多く内容を話しはしなかった。

そして、帰りの遅い父親と夕食を共にすると言い、制服のまま鍵盤に向かったのだ。

明るい声で返事をした華さんが、閉じかけのドアの向こうで表情を曇らせたことを、千帆は気付いていない。

 やがてだらだらと考え続けていたことの、方向が定まったのだろう。

突然、千帆はしゃべりだした。

怒ったような乱暴とも言える手つきで、教本のページをめくりながら、だ。

「そりゃ頼んだら先ぱいはいつだって弾いてくれるけど」

オレの神経は、ぴりぴりと反応し始めた。

予想は当たってもめでたくもない、当然。

裕明絡みに決まっている。

「違う。いつでもじゃない。私、気をつけてるもん。邪魔にならないように」

 フォルテ。

初めから、強弱が掟破り。

つぅか強弱など抜きにしてがんがんと、しかもハイテンポで突っ走る。

これはこれで見もの、だとか、推奨しては良くはない。

「先ぱいのいつでもは、奏ちゃんにだけだもん」
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