キミニアイヲ.
スローモーションのように、ゆっくり楓の顔が離れていく。


莉子は一瞬夢じゃないかと疑ったが、まだ唇に残る柔らかい感触と微かな肌の匂いが、これは現実なんだと感じさせる。



「か…えで……?」



ようやく出た声は心なしか震えていた。


楓は穏やかな眼差しで莉子を見つめると、その華奢な身体を優しく包み込むように抱きしめて


「ありがとう」


と、耳元で囁いた。



楓の抱えている問題は、何一つ解決されたわけじゃない。


でも、その一言と抱きしめられた腕から楓の想いが伝わってくるような気がして──


今はそれだけで十分だと思った。


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